現地食探求はバックパッカーのたしなみ。世界のB級グルメを紹介します。今日のお題はキャバブ。イランを代表する肉料理です。イランは紀元前に栄えたペルシア帝国をはじめとした多くの強大な国と高度な文化で知られ、イスラム教が広まってからは、アラブ世界とは少し異なるイスラム文化圏を作り上げた歴史の宝庫のような国。
ここで古代から食べられてきた焼肉がキャバブ。イランに行くとキャバブを堪能(たんのう・十分に満足すること)できるというか、強制的にキャバブ漬けになるのです。
※ トップ画像はイスファハーンのキャバービー(キャバブ屋)
※ フィルム写真から持ってきた画像なので、ちょっと荒ボケた画像が多いのが残念
ケバブ? カバブ? キャバブ?
「ケバブって美味しいよね」
「えっ、カバブのこと?」
「いやそれはキャバブだよ」
どれも「焙り焼肉」を意味し全部本当の名称です。地域で名称が変化しているだけ。
現在の日本人にとって一番なじみのある「ケバブ」は、トルコ発祥で世界に広まったドネルケバブからきています。ドネルはトルコ語で「回転」です。
でも日本人に最初に広まったのは「カバブ」でしょう。
インド最後の王朝はイスラム系のムガル帝国で、イスラム圏の料理がインドにも浸透しました。
そのひとつがシークカバブで、串(シーク)に刺したミンチを焙ったもの。これが広まりつつあったインド料理店で提供されたので、年配の日本人にとっては「カバブ」という呼び方の方がなじみ深いのです。
※ シシケバブと呼ばれたこともあります
一番マイナーな「キャバブ」はイランのペルシャ語の表現ですが、実はこれが一番歴史があるかな。2500年前のアケメネス朝ペルシア帝国の時代からキャバブは食べられていたとか。
ウィッキ先生によるとアッカド語で焼く・焦がすを意味する言葉がキャバブの源とか。アッカド語なんて4000年前の言語ですよ。文字なんて楔形文字(くさびがたもじ)だよ。どんだけ歴史あるんだ。
まあ、「ケバブ」も「カバブ」も「キャバブ」も根は同じですね。ウイグルだと「カワープ」、バルカンだと「チェヴァプ」と各地でなまって伝わっています。
次の画像はコソボの首都プリシュティナで食べた挽き肉、ガマの穂型のケバブ。えらく小型でした。
キャバブはどんな焼肉なの?
焼肉というと鉄板や網の上で肉を焼くイメージですが、キャバブは串に刺した肉やひき肉を焙り焼きします。街の繁華街や観光地にはキャバービーと呼ばれるキャバブ屋があり、店頭で肉を焼いて客をひきつけます。
ちなみにイランは世界有数の産出量を誇る産油国ですが、イラン革命このかたアメリカと対立し、経済封鎖をくらって輸出入もままならない状態。国民の生活も余裕がなくキャバブはなかなかのごちそう。
キャバブもいろいろな種類がありますが主な物はこの4種です。
① ジェジュ・キャバブ
ジェジュは鶏肉を串に刺して焼いたもの。ちなみに工場のように巨大な、大量の鶏を生産するブロイラー養鶏所で鶏肉が供給される国は鶏肉が比較的安価です。
肉1kgを得るのにエサが何kg必要かという飼料効率という言葉があります。鶏2、豚4、牛8という数字なので鶏肉が一番コストが低いためです。
でも、イランのように小規模だと養鶏は手間がかかり、鶏肉は高目ですね。
ジェジュ・キャバブは鶏肉をただ焼くだけでなく、サフラン水、玉ねぎ、スパイスなどでマリネしています。これにより柔らかくなって、下味もつきます。
これを炭火で焼くとジューシーなジェジュ・キャバブの完成。日本の鶏料理も悪くはありませんが、それとは一味ちがう鶏肉を味わえます。
② クビデ・ケバブ と クフテ・キャバブ
羊や牛のミンチを鉄棒に巻き付けて焼くキャバブ。インド料理店のシークカバブに似ているガマの穂状の物はクフテといいます。ペルシャ語の「たたく、挽く」という言葉が語源ですが、周辺国では「キョフテ」「コフタ」などに変化しています。
幅広の剣型鉄棒に巻き付けて焼く、平べったいタイプがクビデ。食感の違いは分かるけど、味の違いは分かりませんでした。
キャバブを注文すれば自動的に主食と付け合わせがついてきます。
主食はイランのパンであるナン。ナンも何種類かありますが、薄焼きのラヴァーシュが一番多かったかな。
ホテルやレストランだとチェロウ(ご飯)との組み合わせが多かった。ご飯の方が少し高級なのかな?
つけ合わせの定番が焼きトマト(ゴウジェ)、各種香草、玉ねぎ、フライドポテトなどなど。
③ チェンジェ・キャバブ
羊の赤身を串焼きにした物。一番素朴な感じ。
④ ジギャール・キャバブ
レバーのキャバブ、安いがクセがあるので好き好きが別れるかな。
現在もそうでしょうが、イランで東アジア人は珍しがられます。特にアメリカと戦争したことがある日本人は、同志という感じで親しまれます。女学生に囲まれたりしますが、もてているのではなく珍獣あつかいです(笑)
※ 骨付きラムを焼いたシシリク、小さなハンバーグみたいなタベイ、地方ごとのキャバブなど様々な種類がありますが、どこでも食べられるのは上記のキャバブです。
キャバブができるまで
キャバブ作りの画像です。一軒のキャバービーを追ったわけではありません。
写真を整理して改めて感じたのが、キャバブ職人の皆さん普通の服装だね。コック服とか作業服はないのかな?
イランのキャバブ地獄です
昔のバックパッカーの会話の定番だったのがインドの「マサラ縛り」とイランの「キャバブ地獄」というやつ。
インドの食べ物はほぼ全て、何らかの形でスパイスや混合スパイスのガラム・マサラを使うため、日本人には何を食べてもカレー味。インド滞在中朝から晩までカレー味、他の選択権なし、という状況を「マサラ縛り」と呼んだのです。
最近はインドにもマクドナルドなどができて、マサラ味から少し逃げることができるようになりました。
※ インドのマックにはビーフのハンバーガーはありません。そんな物出したらヒンドゥー教徒に放火されます。
※ インドのマックメニューはヴェジ(ヴェジタリアン用)とノン・ヴェジ(肉使用)に分かれており、前者の主力は野菜コロッケ的な具を使かい、後者はチキンです。2012年時点では両方ともマサラ味ではありませんでした。でも今は消費者のニーズに応じてマサラ味になっているかも…恐ろしい
そしてイランでは3週間の滞在中、毎日とはいいませんが、かなりの回数キャバブ漬けでした。イランは現在も鎖国しているみたいな感じで閉鎖的な経済環境のためか外食産業が貧弱。家庭内では様々な煮込み料理などがあるといいますが、ごちそうである外食はやはりキャバブじゃないとダメという感じ。
旅行中キャバブ以外の店があればそこにしましたが、キャバービーしか無いよ、という状況も多々ありましてキャバブ率異常に高い「キャバブ地獄」になります。
※ 首都テヘラン以外には外国料理店というものがありません。困ったら中華料理に逃げるという避難措置はテヘラン以外ではとれません。そのテヘランの中華料理も ??? というレベルですが、とりあえずキャバブ地獄からは逃げられました。
いや、キャバブ美味しいし、好きだけどこう連日キャバブ続きだとね。
イラン料理はキャバブだけじゃない。この店のメニューを見てください。
うわ~イランでこんな豊富なメニュー見たことない。特に地方都市では絶対ない。なぜ無いか。観光産業が貧弱だから。特に外国人が来ない。アメリカが意地悪しているから。
トラタロウが行った時にはまだありませんでしたが、今はイランに入国した記録がパスポートにあると、正規のビザを取らなければアメリカに入国できないのです(乗り換えだけでも必要)。ちょっとイランに行くの考えちゃいますね。
でもまたキャバブ地獄に漬かりたいと思う今日この頃です。
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