現地食探求はバックパッカーのたしなみ。世界のB級グルメを紹介します。今日のお題はインドの朝食。中国や東南アジア諸国のように、勤め人が出勤途上中に屋台や店で朝食をとる国々がありますが、インドもそんな国のひとつ。
広大な国土に多彩な民族、言語、気候、文化、農作物があるため朝食の種類も多いのですが、旅行者が路上で見つけられる代表的な朝食を紹介します。まあほとんど主食の紹介となりますが。
※ トップ画像は鉄道駅ホームの朝食屋台
北インド系の朝食
インドに初めて行ったのは1989年の12月でニューデリーに入りました。インドでも北部の冬は寒いと聞いていましたが、予想を上回る寒さ。凍死する路上生活者も珍しくないというのも納得です。ただ乾季なので雨は全然降らないのが旅行には便利でした。
デリーを中心とする北部平野や、ベンガルールより北のデカン高原は降雨量が南部より少なく冬は寒いため、寒さや乾燥に強い小麦が作物の中心。朝食も小麦粉製品が多いのが特徴です。
インド人の好みとしてアタ(Atta)と呼ばれる未精製小麦粉(全粒粉)を使うため日本人には少し違和感あり。
① チャパティ(Chapati)
インド料理好きな日本人がインドに行って確実にがっかりするのが、インド人がナン(Naan)を食べないこと。
ゼロではありませんが、ナンを焼くにはタンドールという大型の垂直型かまどが必要です。これはかなり燃料費がいるので一般家庭や小さな飲食店にはありません。
タンドールがあるのは高級店や専門店で、インド人にとってもナンはごちそう。ちなみにタンドールで焼いた鶏肉がタンドーリチキンです。
※ 日本のインド料理店のナンは日本人にアピールするため独自に進化したものです。精製小麦粉を使い、発酵度が高く、甘い、独特の形で大きいというのが日本のナンの特徴。インドの素朴なナンを食べるとそのギャップに驚くことでしょう。
一般家庭や小さな飲食店で提供されるのが、アタ・塩・水だけで作る素朴な未発酵パンであるチャパティ。円形に伸ばした生地を鉄板で焼くだけですが、単純ながら難しく、インド娘の嫁入り修行だとか。
半発酵させたナンに比べると固いですが、焼きたてはなかなか美味。
チャパティに各種カレーや煮物などをつければ基本的な朝食のできあがり。
ちなみにカレーはインドの言葉ではありません。ポルトガル人が香辛料を求めて南インドに来た時、おかずを意味するカリという言葉が誤って伝わった、と言われます。
インドのおかずはほとんど香辛料を使うので、外国人には何を食べてもカレー味ですけど。
② プーリー(Puri)
チャパティの円形に形成した生地を焼かずに揚げた物。中温の油でじっくり揚げると生地がプックリ膨らんできます。
インド人の多くが信じるヒンドゥー教は浄(清らかさ)と不浄を重視しますが、食物にも浄・不浄があります。油で揚げた食物は浄とされますので、宗教的にも良い食品。
➂ パラータ(Paratha)
チャパティの生地を薄く伸ばして油脂を塗ってたたみます。これを鉄板で焼きますが、間に油脂が入っているので、ちょつと柔らかくなり、味もリッチです。でもパイのように層はできません。
チャパティの上位品なので、定食でこれが主食だとアップグレード感が強い。
インド系住民の多いマレーシアでは、パラータをさらに品種改良したようなロティチャナイがあります。油脂多めな柔らかい生地を薄く伸ばして折りたたみ、少し層ができる。
プレーンもありますが、様々な具を加えてさらに美味しさを追求。インドには無いインド料理です。
※ ロティチャナイに関してはこちらをご覧ください
世界のB級グルメ/07 ロティチャナイ in マレーシア
※ ロティチャナイは正確にはインド系イスラム教徒(ママッ、Mamak)料理だとか。
各主食につけられるソースは
サンバル …赤いスープ状のカレーソース、定番中の定番
ダル …豆を使ったソースや煮物
チャトニ …豆やスパイスで作るペースト状ソース
ラッサム …酸味のあるスープ
ダヒ …ヨーグルト・ソース
ミントやバジルを使った香草のソース
などが多いです。次の南インド系朝食も同じようなソースがつきます。
インド人の多くが信じるヒンドゥー教の影響でヴェジタリアンが多いため、朝食メニューは基本的にヴェジタリアン料理です。
南インド系の朝食
コーチンなどのインド南部やコルカタなどガンジス河流域は、豊かな降水量・日射量のため稲作地帯。
稲は条件さえ整えば、収穫量×エネルギー量で計算すると、同じ耕地面積で麦の2倍の人口を養えます。昔から稲作のアジア地域が麦作の欧州地域よりも人口が多いのはこのためです。
米は炊いてご飯として食べるのはもちろん、豆粉と混ぜて発酵させた生地を加熱し、パンのような状態で食べることもできます。
この時の豆はウラド豆というモヤシアズキの仲間が使われます。中国でアンに使う緑豆もこの仲間。
日本でもインド料理の重要素材として通販で買えるのが驚き。
④ ドーサ(Dosa)
見た目インパクト最強です。こんがり焼けた巨大なコレは何?という感じ。
米粉とウラド豆のペーストを一晩寝かせて発酵させた生地を鉄板に流します。鉄板上で生地をごく薄く伸ばして焼くだけ。片面だけ焼いて熱いうちにクルリと丸めます。
鉄板から皿に移すと生地はすぐに固くなるので、焼きたてパリパリをソースにつけていただきます。
⑤ イドリ( Idly または Idli )
見た目そのまんま蒸しパンですが、米粉が主な材料です。
米粉とウラド豆の発酵生地を型に入れて蒸したもの。発酵させてあるため少し酸味があるのとボソボソした食感で好き嫌いが分れるかも。
⑥ ヴァダ(Vada)
一見ドーナッツのような形なので甘そうな感じですが、薄い塩味です。
ウラド豆のペーストに玉ねぎ、香草、スパイスを加えて揚げますが、ソースに浸して食べるのが基本なので具材は控えめ。
食感も小麦粉ではないのでオカラ・ドーナッツ的です。
揚げたヴァダは内部に気泡があり、水分を吸いやすい。そのまま食べる他に、ソースやカレーに漬けて煮びたしのような料理にできます。
味が染み込むのでなかなか美味。インドの赤ちゃんの離乳食ってこれかな、と思いました。
⑦ ウプマ(Upma)
米粉またはセモリナ粉に野菜やスパイスを加え、煮たり蒸したりして形を整えた食品。南インドが中心だが、めったに見かけなかった。味は淡泊なのでソースをつけるのは同じ。食感はクスクスにも似ていた。
⑧ イディアッパム(ストリング・ホッパー)
米製の麺です。米粉に雑穀粉または小麦粉を入れ塩・水を加えて練り、押し出し機で糸状の塊に形成したあと蒸して完成。麺の一本一本が離れず、ゆるい塊になるので、普通の麺とは食感が違いますね。
タミル語でIdiyappam、英語表現が String Hoppers。スリランカでもよく食べられています。
⑨ アッパム(Apaam)
米粉にココナッツミルクを入れ、発酵させた生地を作ります。小型の中華鍋のような鍋に生地を入れたら、全体に生地を薄く延ばして加熱。
中心部は生地が厚いのでモチモチ、周辺はカリカリの食感。主食にするほかカレーソースと合わせて朝食、甘いココナッツミルクと合わせてお菓子にもなります。
アッパムは南インド~スリランカで食べられますが、スリランカの方が多い印象でした。南インド系移民の子孫が多いマレーシア、シンガポールにもあります。
外来の朝食
インドの食べ物はほとんどインド料理。基本スパイスを使うので、みんなカレー味です。カレー味しか食べられない状況をバックパッカーは「マサラ縛り」(マサラ=インドのミックス・スパイス)と呼びました。
ただ例外もありまして、中国の影響かチャーハンや醤油ヤキソバ的な物はあります。でもこれらは朝食には食べないかな。
朝食に一番使われる外来食品が食パンです。日本でも一番売られているであろうトーストにする四角いパンですね。これは世界共通みたいな気もしますが、イギリスが発祥でその影響を受けた国(多くは旧植民地)が中心。どこにでもあるとは限りません。
日本は植民地ではありませんが、鉄道・郵便制度等数々の影響を受けました。特に影響を受けたのが海軍でイギリス食パンも導入されます。海軍士官を養成する海軍兵学校の朝食は味噌汁に食パン。食べ盛りの少年達は、端の固い部分が食べ応えがあるため「アーマー」(装甲)と呼び、そこが配られると喜んだとか。
インドもイギリスの植民地だったため、イギリス食パンは普及しており、朝食にも使われています。
⑩ オムレツ・サンドイッチ
卵を山のように用意した屋台では、コックが注文を受けると手早くオムレツを焼いてくれます。これをパンにはさめばオムレツ・サンドイッチの出来上がり。パンをトーストしてくれる所もあります。
簡単な料理ですがインドでマサラ味じゃない食物は貴重品。これ以外はマクドナルドにいくしかありません(ここにもマサラ味はありますが)。
パンに卵液をかけて包むように焼くオムレツ・サンドもあるようです。でも手間がかかるため屋台朝食には向かないかな。一度も見たことがありません。
雑多な朝食
インドは屋台天国ですので様々な食物が売られています。これらが朝から売られていれば、すべて朝食になります。
インドの活力は朝食から、という感じ。世界で一番人口が多い国となったインドを支える朝食の数々でした。
2022年末からマレーシアに移住し、クアラルンプールに住んでいます。マレーシア人の7%はインド系(タミル語を使う南インド系が多い)で特にクアラルンプールに多い。
インド人街に行けば当然のようにインド朝食が食べられますが、インドの物より美味しいかも。ただし値段は何倍も高くなりますけど。
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