現地食探求はバックパッカーのたしなみ。世界のB級グルメを紹介します。
今日のお題はメキシコ・中米のトウモロコシ。トウモロコシでB級グルメと言われても???という感じですが、トウモロコシ発祥の地であり、今なおトウモロコシを主食とするメキシコ・中米では、なかなかの数のトウモロコシを素材とするB級グルメがあるのです。グルメと共にメキシコでのトウモロコシの文化的立ち位置も紹介します。
08タコスの中でふれるつもりの内容でしたが、その数の多さゆえに別項目とすることにしました。メインはメキシコですがガテマラ、ホンジュラス、エルサルバドルなどの中米諸国も共通の食文化を持っています。
※ 使われている画像の多くは、古い写真を電子化しましたので解像度が少し低いです
※トップ画像は陶板でトルティーヤを焼くインディヘナ女性
発祥の地メキシコのトウモロコシ事情
トウモロコシの始まりは神話から
ピラミッドと言えばエジプトですが、じつはメキシコにもマヤ文明のピラミッドがたくさんあります。ユカタン半島の中心都市メリダやリゾート地カンクンから簡単にアクセスできる有名なマヤ文明遺跡がチチェン・イッツァ。ここの売りがククルカンのピラミッドで四面にある階段の数がマヤ暦を表しています。
この遺跡に残るマヤ神話レリーフには穀物神シンテオトルの血潮からトウモロコシ生える情景が描写されており、古来からこの地でトウモロコシが重要視されていたことがうかがわれます。
ユカタン半島は川が無くて農業に向きませんが、石灰岩で構成された台地は鍾乳洞ができるため、あちらこちらにため池ができてトウモロコシ栽培が可能になり、これが文明の基礎となります。
登れなくなったピラミッド
このピラミッドの写真は2005年の第30回海外旅行時に撮影したもので、ピラミッドの階段を観光客が登っている様子が分かります。だが2006年からピラミッドの登頂は禁止されてしまいました。遺跡保存上の理由もありますが、あまりの急階段で転落事故が後を絶たなかったのも理由のひとつです。
急階段に造られたのは、マヤ文明では太陽に生け贄(いけにえ)の人間の心臓を捧げる儀式がピラミッド頂上の神殿で行われ、生け贄の遺体を階段から下に落とす都合があったとか。この情景をリアルに描写したのが2006年につくられたアメリカ映画『アポカリプト』。マヤ文明やメキシコに興味のある方にオススメです。
首都メキシコシティの観光でマストなのが国立人類学博物館。さほど歴史に興味が無い人でも、マヤ・アステカ神話を主とした数々の神々の像には圧倒されるでしょう。
ここにも腰に農作物をかけた農業神の像があり、農作物の中心にあるのは明らかにトウモロコシ。昔から一番大事な作物でした。
トウモロコシを改良し続けたインディヘナ
この博物館の展示物のひとつが紀元前5300年の物と推定される野生のトウモロコシです。それは3センチほどの穂先に小豆粒のような実がついたもので、どこを食べればいいんだ、と思うようなサイズです。
中米はエルサルバドルの首都サンサルバドルの郊外に発見されたマヤ遺跡がホヤ・デ・セレン。1500年前の火山噴火で小さな村が火山灰に埋まって保存されていたのです。
ここで炭化した状態で発見されたのが10センチほどのトウモロコシで、先住民インディヘナが6000年ちかくの年月を費やして品種改良を続けた成果がうかがわれます。
この遺跡は世界遺産で、自称「中米のポンペイ」ですが、世界遺産と言うにはあまりにも規模が小さい。周辺国の壮大なマヤ遺跡が世界遺産になるのを見て、悔しく思ったエルサルバドルが意地で申請したのかな、と思ってしまう。ちなみにこれがエルサルバドル唯一の世界遺産です。
主食のトウモロコシは白いのです
三大穀物という表現があり、米と小麦はすぐ思い浮かぶでしょうが、3つ目がトウモロコシだということはピンときませんね。実は生産量では米・小麦より多いのですが、多くは家畜の飼料で、人間が食べる割合は低いので。
さらに米・小麦・ジャガイモと並ぶ四大主食ではありますが、トウモロコシを主食にしている国はメキシコ~中米、東アフリカが中心であまり知られた国は無いもので。
ケニアもトウモロコシを主食とする国で、粉に熱湯を加えて練り上げたウガリを食べます。1998年にケニアを訪れた時に初めて食べましたが、少しのおかずで大量のウガリを食べるのにびっくり。1日に5合の米を食べていた昔の日本人みたいでした。
そしてトウモロコシなのに黄色じゃなくて白色でした。当地では黄色いトウモロコシは家畜の飼料だそうです。
もうひとつ驚いたのがウガリは淡泊で特に味が無いこと。じつはこれは主食になる作物の条件の一つです。あまり味の強い食物はあきてしまうので主食として大量に食べるのに向きませんし、色々なおかずに合わせるのも難しくなります。
メキシコでマイス(maiz)と呼ばれる主食用トウモロコシも白っぽい硬粒種(フリントコーン)という品種で味は淡泊。日本で作られる黄色い甘味種(スイートコーン)とはまったく別の食べ物と思ってください。
※かつてアフリカのトウモロコシを主食とする地域で飢饉が発生した時のことです。日本から黄色いトウモロコシを救援物資として送ったら、家畜の飼料をよこしたと誤解され激怒されたとか。文化の違いは難しいですね。
※ トウモロコシの品種・歴史を紹介するサイト に移動します
マイスから作るマサ(生地)がスタート
上はメキシコ国立人類学博物館に飾られていた絵で、男達が栽培したトウモロコシを女達が生地にしてトルティーヤを焼く情景を描いた物です。トウモロコシを生地(マサ)にする道具が、メタテ(metate)と呼ばれる縦長の石皿とマノ(mano)と呼ばれる丸い棒状の石のすり棒。
穀物を粉にする道具といえば石臼(ロータリーカーン)ですが、これはかなり高度な道具ですぐには開発されませんでした。どの文化圏でも石臼以前に使われたのが石皿とすり棒のセットでサドルカーンといい、メキシコのメタテとマノもこれに属します。
現在はキシコでも機械でトウモロコシを生地にしていますが、田舎ではメタテとマノも現役で使われています。
トウモロコシを生地にする前に大事な工程があります。トウモロコシに水と石灰を加えて加熱する石灰水処理(ニシュタマリゼーション)と言う工程です。トウモロコシをアルカリ性の水で処理することにより①皮が取れやすくなる、②粘りが出て形成しやすくなる、➂必須アミノ酸の吸収が良くなる、などの効果があります。
こうして作られた生地はマサ(masa)と呼ばれ、これから多彩な食品が生み出されます。昔は各家庭でマサを作っていたのでしょうが、現在は水を加えればできるインスタントマサもあります。
また市場に行くとトルティーヤ専門店もあります。
マサから作られるB級グルメ
トウモロコシで作った生地マサ、そしてマサから作るトルティーヤからは様々なバリエーションの食品が生まれますので、主な物をまとめてみました。
①~⑤はマサから作る食品、A~Hはトルティーヤのバリエーションになります。
※ 青字をクリックすると各食品の詳細説明に移動します
①トルティーヤ …マサを円形に形成して焼いた基本の主食
Aタコス …トルティーヤで具を包み二つ折りにしていただく
Bケサディーヤ…トルティーヤで作ったチーズサンド
C エンチラーダ…具をトルティーヤで巻いてソースをかける
Dトスターダス…円形のトルティーヤを揚げて具をのせた物
Eチラキレス…小さく切って揚げたトルティーヤと具を煮こむ
Fブリトー…トルティーヤで具を筒状に包む
Gナチョス…チップスにチーズやソースをかける
Hドリトス…トルティーヤを揚げて味付けしたスナック
②タマーレス …マサにラードと具を入れて、トウモロコシの皮で包み蒸す
③ププサ …マサで具を包み陶板で焼いた物
④ソペス …厚めの円形のマサを焼き、縁を作ってタルト状にした物に具をのせる
⑤アトレ …マサに水や牛乳を加えて加熱し、香料・フルーツなどを入れた飲み物
① トルティーヤ(Tortilla)
マサを直系10cm、厚さ3ミリほどに形成し、陶板で焼いた薄焼きパンで、メキシコや中南米諸国の主食です。発酵させたり膨張剤を入れたりしていないので膨らんでいませんし、かなりトウモロコシの香りが強いです。
飲食店で料理を注文すれば、ほぼ自動的にトルティーヤがついてきます。冷めるとまずいので保温用の布にくるまれてきますね。
トルティーヤはスペインではジャガイモなどを入れた具沢山のスパニッシュオムレツのことですが、スペイン人が先住民インディヘナの焼く薄焼きを見てトルティーヤと呼んだことからこの名が定着しました。先住民インディヘナはTlaxcalliと呼んでいたという記録があります。
マサを円形に薄く伸ばすのも、その昔は幅広の葉に包んで伸ばしましたが、やがてビニールに変わり、今では伸ばす型があるそうです。
焼くのに陶板はまだ使われていますが、専門店では自動トルティーヤ焼き機で焼いています。
A タコス(Tacos)
トルティーヤに具をのせ、各種サルサ(ソース)をかけて二つ折りにしていただくメキシコのソールフード。タコスの店をタケリア(taqueria)といいますが、メキシコはタケリアだらけ。
揚げたトルティーヤに具をはさむのはアメリカ式のタコスでメキシコ~中米にはありません。
※ 詳しくは 世界のB級グルメ/08 タコス in メキシコ をご覧ください
B ケサディーア(Quesadilla)
スペイン語でチーズをQueso(ケソ)と言いますがケサディーアは「チーズが入った物」くらいの意味。トルティーヤでチーズと具をはさみ加熱したホットサンド的な物。
ガテマラ、エルサルバドルでは甘いフィリングを入れてデザートにもします。
C エンチラーダ(Enchilada)
スペイン語でトウガラシを意味する単語はいくつかありますが、その1つがChile(チレ)。
エンチラーダは「トウガラシが入った」というような意味で、トルティーヤに具をつめ巻いてトマトとトウガラシのソースをかけたのが始まり。今では色々な具・ソースを使いバリエーションが多い食べ物です。
D トスターダス(Tostadas)
直訳すると「トーストされた物」。トルティーヤを焼くか揚げるかしてパリッとさせた物に具を盛ります。柔らかいトルティーヤと違い、水分の多い具やデップとの相性が良いので、様々な具をのせた前菜として好まれます。
特にアボカドのデップであるワカモーレとの相性はバツグン。
E チラキレス(Chilaquiles)
カリカリに揚げたトルティーヤチップス、小さく切って揚げるとトトポス(Totopos)と言う、にソースをかけて柔らかくなるまで煮込んだ物。冷めたトルティーヤはたいそう不味く、これを食べさせるのは虐待を意味するというが、これを有効利用したのが始まりとか。朝食メニューとして好まれる。
F ブリトー(Burrito)
セブンイレブンで売っているあれです。日本やアメリカではフラワートルティーヤ(小麦粉製)で具を筒状に包む。
チワワ州シウダー・ファレスで生まれ、アメリカに伝わり小麦粉皮になったという説とテクス・メクス料理(Tex-Mex、テキサス・メキシコの意でアメリカ生まれのメキシコ風料理)として、最初から小麦粉皮だったという説がある。メキシコではトルティーヤでも作ってます。
G ナチョス(Nachos)
これもメキシコ発祥でアメリカに伝播説とテクス・メクスでアメリカ生まれという説がある。トルティーヤチップスにチリコンカン、ソース、チーズなどをかけオーブンで焼いてサワークリームやワカモーレをそえていただく。
アメリカで広まるメキシコ風料理の代表格だが、トラタロウはメキシコ~中米では見たことがありません。
H ドリトス(Doritos)
アメリカのフリトレー社の商標だが、トルティーヤチップスのスナックとしては一番知られているかな。1966年の発売というがかなりの国々で見ますね。
スペイン語のderadito(こんがり揚がっている小さいもの)が商標の由来とか。
日本では湖池屋の「ドンタコス」が同じような商品ですが、トルティーヤ由来のスナックということは知られているのかな?
ちなみに画像のドリトスはメキシコで買いました。
② タマーレス(Tamales)
マサにラードを混ぜ、具をいれてトウモロコシの皮に包んで蒸した物。値段は具によってピンキリで、フルーツなどを入れたデザート仕立てもある。食感はモチモチではなくモサモサ。
単数形だとタマーレ(Tamal)。お祭りお祝いによく作られます。
➂ ププサ(Pupusa)
これはエルサルバドルやホンジュラスの名物でメキシコではあまり見ない。マサにチーズなどの具を包み焼いたシンプルな物だが、とても美味しく個人的にはマサの加工品で一番好きかも。
クルティードというキャベツの酢漬けと一緒に食べると一段と美味です。
コロンビア、ベネズエラのトウモロコシパンであるアレパに似ている。
④ ソペス(Sopes)
マサを厚めの円形に形成し、縁を作ってタルトのように焼き上げます。各種の具をのせて仕上げますが、縁があるのでのせやすい。
特にこれを入れなければソペスではない、というルールは無いようですので、具沢山の贅沢タコスという感じ。
船型に焼き上げる場合もあります。
⑤ アトレ(Atole)
マサかトウモロコシ粉に水か牛乳を加えて火にかけてデンプンを糊化させて作る飲料。味つけはココア、バニラ、シナモン、砂糖等で店によって様々。
美味しい物は葛湯みたいだが、ハズレはバリウムのようだ。店による当たりハズレはあるが、都会のしゃれた店で飲むのが無難。田舎の市場のそれは個性的すぎる物が多かった。
マサから作られるB級グルメ に戻ります
守れるかメキシコのトウモロコシ文化
メキシコに2回、中南米に1回、合計1ヶ月半くらいの滞在ではこの地のトウモロコシ食生活は網羅(もうら)できません。今回はマサから作られる主要な食品を紹介しましたが、トウモロコシの粒をつかった食品もたくさんあるし、珍しい関連食品としてはトウモロコシに生えるカビの一種(ウイトラコチェ)などという食材もあり興味が尽きません。
メキシコ北部やバハカリフォルニア、中南米の南部も行ってませんので、次の機会ではさらに詳しく調べてみたいですね。
近年トルティーヤ危機と呼ばれるほどトルティーヤの値上がりがひどいようです。
2007年にはトウモロコシを利用して作るバイオエタノールの関係で高騰。
2018年にも20%~40%の値上がりが伝えられました。
最近は2024年までにメキシコ政府が、遺伝子組み換えトウモロコシの栽培禁止を決めたことで影響が懸念されています。
なにしろメキシコ人は、平均で年に90kgのトルティーヤを食べるといいますので、少しの値上がりでも影響が大きいようです。困難にめげずトウモロコシの食文化を維持してもらいたいです。
※ 日本にもタコスを愛する人が増加しているようです
一般社団法人タコス協会のHP に移動します
ご近所のタケリヤ(タコス屋)を探すのに便利なHPです
コメント
コメント一覧 (1件)
世界にはいろいろな食文化があるのを実感しました。食べ物は人間にとって本当に大事なもので、各人種の歴史の中でその知恵により、原材料の収穫、料理方法、保存の方法等々について改善が続けけられてきたことが感じられます。食文化とその歴史が世界のどこの国の人々にとっても本当に大事で重要ななことを実感しました。 以上です。