現地食探求はバックパッカーのたしなみ。世界のB級グルメを紹介します。今日のお題はベトナムの米麺ブン。アメリカと言えばハンバーガー、べトナムの米麺と言えばフォー。けして間違いではないのですが、アメリカではハンバーガーよりホットドックが食べられています。同じようにベトナムでフォーの消費を上回るのがブンという米麵。
2024年3月にベトナム南部を3週間旅してブンを追求してみた結果をまとめました。
※ トップ画像はメコン河の街チャウドックのブン店
ブン( Bún )とはどんな麺でしょう
ベトナムは南部を中心に熱帯気候、豊富な水と平野で世界有数の米生産国、生産量は世界5位。消費量は1人1日あたり398gで世界4位、日本人の4倍近く食べています。
ご飯として食べるほかにも米粉春巻きの皮、クレープのようなバインセオなどに加工されますが、米麺にも加工されます。その代表がブンとフォー。
フォー と ブン はどう違うの?
フォーもブンも米から作る麺ですが、作り方が違います。
フォーの作り方
湯気のたつセイロの上に張られた布に溶いた米粉(でんぷん等も入っている)が流し込まれ、広げられます。しばらくすると職人が固まった薄い生地をヒョイとはがしました。
これはバイン・クオン(Bánh cuốn)という蒸し春巻きの皮になります。
この蒸しあがった円形の生地を乾燥させた物がいわゆるライスペーパーで、生春巻きなどに使われます。
そしてこの生地を細長く切って乾燥させると売られている乾燥フォーになるのです。
製品によってデンプンの量などが微妙に違うのかもしれませんが、基本的に作り方は同じですね。
ブンの作り方
ブンは米粉の柔らかい生地を複数の穴があいた容器に入れ、圧力をかけて糸状に押し出します。下には茹で鍋が置かれ、糸状になった生地が茹でられ麺となります。
押し出し麺と呼ばれるタイプで、日本にはありませんが中国の製麺法のひとつであり、韓国の冷麺、イタリアのスパゲッティも押し出し麺です。
ブンは押し出し器の穴の大きさで麺の太さが簡単に変えられ、加熱されているので、スープに入れたり、タレをかければすぐ食べられます。
同じ米麺でも乾麺で売られるフォーは食べる前に戻さねばならず、茹で時間もけっこう長いので大変。
即食べられるブンの方が消費量が多いのも納得。ただブンは麺の歯ごたえが無いのが残念ですが、そういう麺ですので。
もちろん乾燥ブンも売られています。
ブン のある風景
ベトナムの街で Bún (ブン)と phở(フォー)の看板の多さを比べてみると、明らかにブンが優勢のよう。特に屋台店では手軽に出せるブンが圧倒的に多いのです。
ブンのある風景をピックアップしてみました。
ブン麺店は固定店舗のほかに屋台もあります。下記の屋台は移動しながら市場の店に売り歩き、器はあとで回収するみたい。この屋台はスープ大鍋も運べる優れ物。
上のような例外もありますがスープ系ブンは店舗、屋台系はタレ系(少量のタレをかける、またはタレに漬ける)が多いですね。ただブンはすでに加熱加工されているため、茹でるというよりは湯通しするていどでOK。
ブンの出前もあります。バイク王国なので出前もバイクですが、どんぶりをセットして片手で持てる岡持ち?がありました。
ブン の具と付け合わせ
どの国の麺料理も麺だけひたすら食べる、ということはなく何らかの具や薬味・野菜がつくのが普通。ベトナムは具や野菜の種類がとても豊富。トラタロウが食べた物をあげてみます。一部はバインミーの具とダブりますね。
ニュクマムだれに漬け込んだ豚肉やつくねを炭火で焼いた具が人気。thịt nướng(焼肉)と書かれていればこれです。
豚肉が主流のベトナムですが、当然豚肉加工品のハムもブンの具です。滑らかにすった豚肉で作るチャールア(Chả lụa)やゾールア(Giò lụa)。様々な部位・具を入れてテリーヌのような断面を作る(ジョートォ(GIÒ THỦ)などがあり、切ってそのまま具にします。
赤身の豚肉で作るのにベトナムハムはなぜか白っぽいのが不思議。これはヨーロッパ式のハムが塩漬け・下味をつけたあと燻製で加熱するのに対し、ベトナム式はボイルして作るからかな?
豚は多産で成長も早く、その肉はおろか内臓・皮・脂肪・骨・脳みそまで利用できるありがたい家畜。「ヒズメと鳴き声以外は全部使える」と言います。
ライスペーパーで包んだ春巻きも人気の具。北部ではネムザン(Nem rán)、南部ではチャーゾー(Chả giò)、焼き春巻きはネムヌオン(Nem Nướng)と呼ばれます。
生春巻きのゴイクンは麺の具には使いません。あれは独立した食品ですね。
南北に細長い国土が海に面しており、メコン川とその広大な支流を持つベトナムは水産物も豊富です。
魚を使ったブン・カー(Bún cá)もありますし、魚のすり身を揚げたチャーカー(chả cá)も具につかわれます。
エビやイカもありますがこれらを具にするとけっこう高くつきます。
ブンに限らずベトナムの麺は野菜をたくさん入れて食べることが多いのです。
市場に行くとそれ用に切られた野菜が大量に売られていました。
前の画像はバナナの花の輪切り(左上)、空心菜を細かく裂いた物(右上)、もやし(下)です。
開花する前の黄色い花は Bông điên điển (和名ツノクサネム)。ブンのトッピングに何度も出ましたが、すごく苦いぞ。
タイでパクチー、中国でシャンツァイ(香菜)、英語でコリアンダーと呼ばれる香草は、ドクダミを薄くしたような香りで好き嫌いが分かれます。日本でもだんだん受け入れるようになり、その愛好者はパクチストと呼ばれるとか。
ベトナムではラウムイ(Rau mùi)と呼ばれよく使われます。苦手な方は「ホンカン・ラウムイ」(パクチーいりません)と叫んで入れるのを阻止しましょう。
屋台のお持ち帰りブンです。スペシャルで注文したら麺が見えないほど具をのせてくれました。幸せになります。
スープ系ブンを食べてみた
ブンはすでに加熱処理されているので、スープに入れればすぐ食べられます。トラタロウが食べたスープ系ブンを紹介します。ベトナムは南北、地方ごとの差異が大きく様々なブンがあるため、「これがブンのすべてだ」なんてとても言えませんけど。
① ブン・カー(Bún cá)
cá は魚のこと。ベトナムは魚介類が豊富ですが、いくつもの支流が流れるメコン河がある南部は特に豊富。魚を入れたブン・カーの看板をいたる所で見ます。
② ブン・リュー(Bún riêu)
トマトの入ったスープで当然赤いです。具によってブン・リュー・クア(カニ)、カー(魚)、オック(たにし)などのバリエーションがあります。
➂ ブン・モック(Bún mọc)
ベトナム北部発祥で澄んだ豚肉スープでわりとアッサリ味。豚肉のつみれ、骨付き豚肉がドッサリ入っていて朝から豪快な麺だった。
店主が「これ美味しいよ」と入れてくれたのが不気味な紫のペースト。魚介系の発酵調味料らしく、アッサリ味がいきなりディープなローカル味に変身。
④ ブン・マム(Bún mắm)
メコン河に面する街チャウドックの名物でマムとは魚介系の発酵食品・調味料。チャウドックの市場にはマム専門店が多く、各種マムが積み上げられています。
このマムをスープに使ったブンだが、発酵食品はクセが強いので慣れないと美味いとは言い難い。慣れる前にギブアップしました。
⑤ ブン・ボー・フェ(Bún bò Huế)
bò は牛肉を意味します。 bò がつくブンはいくつかありますが、ベトナムの古都フェ(王宮が残る)の名を冠したこれが一番有名でしょう。「フェ風牛肉ブン」という意味で、太めのブンを使った牛肉ベーススープ麺。もちろん具も牛肉ですね。
ブンの中で一番広まっていると思う。
⑥ ブン・ボー・ヴィエン(Bún bò viên)
bò viên で牛の肉団子を意味。牛肉ベーススープに具が牛肉団子というそのままのネーミングです。 牛肉団子は豚や鶏のそれよりも歯ごたえがあって好き。
⑦ ブン・ボー・タイ(Bún bò tai)
生の牛肉をトッピングし、熱いスープをかけて牛肉を加熱していただきます。ただベトナムの麺スープは日本ほど熱々ではないので、牛肉は生煮えの感じ。ベトナム人はそこが好きみたいですが、おっかなびっくりいただきます。
⑧ ブン・ゴイ・ダー(Bún gỏi dà)
ベトナム南部ソクチャンの名物で、野菜たくさんの麺サラダ風と聞いていた。ソクチャンから遠からぬカントーで食べたそれは、野菜がほとんどなかったぞ。
⑨ ブン・ヌック・レオ(Bún nước lèo)
英語の説明を見つけたので読んでみると Snakeheadfish が入っているとか。蛇頭魚、なにその恐ろし気な名は。さらに調べると「雷魚」でした。日本にも入ってきても誰も食べませんが、白身の美味しい魚でした。
タレ系ブンを食べてみた
正式な名称ではありませんが、ブンにタレをかけまわして食べる、ブンをタレ(つけ汁)につけて食べる方式をここでは「タレ系ブン」と呼びます。タレは基本ニュクマム(ベトナムの魚醤油)ベースで甘じょっぱくて美味しい。
タレ系ブンは麺に具を盛るだけで作れ、スープを保温する設備もいらないので屋台に最適。ブンの欠点である歯ごたえの無さも気にならないので、トラタロウ的にはスープ系ブンより好きです。
⑩ ブン・ティット・ヌオン(Bún thịt nướng)
thịtは「肉」、nướngは「焼く」を意味しますので「焼肉ブン」。文字通りメインの具として、何らかの焼いた肉がのせられますが、ニュクマムで下味をつけられた豚肉か豚肉団子が普通。焼肉とタレとブンが絡むと絶妙で「ベトナムで必食」の味。
ブンの代わりにご飯を組み合わせたのがコムスン(Cơm Sườn)でこれも必食です。
⑪ ブン・ビー・ネム・ヌオン(Bún bì nem nướng)
メインのトッピングがnem nướng (焼き春巻き)です。でも焼肉系も入っていたりします。
前述のブン・ティット・ヌオンにも春巻きが入っていたりするので、「どう違うんだ!」と突っ込みたくなりますが、どちらをメインにしたかだけのような気がします。
⑫ ブン・ティット・サオ(Bún thịt xào)
thịtは「肉」、xàoは「炒める」で「肉炒めブン」。野菜も一緒に供される家庭の味です。
⑬ ブン・チャー(Bún chả)
chả は肉団子などを意味するが、豚焼肉を供する店が多い。「焼肉ブン」だがブン・ティット・ヌオンと違うのは、つけダレの中に焼肉が入っていること。別に味が薄くなることもなく美味しくいただけますが。
ハノイ名物で昼食時によく食べられます。ハノイ旧市街にあるお気に入りの店は、「味よし、盛りよし、お値段よし」の優良店でした。
トラタロウ的には一番好きなブンであり、フォーよりも好みであります。オバマ大統領がハノイを訪れた時に食べたことでさらに有名になりました。
代表的なブンは食べたと思いますが、スープや具で様々なバリエーションができるため全部を紹介なんて無理ですね。
ポスターで美味しそうなブンを発見。探したけど見つかりませんでした。次回食べたいです。
その他の麺も食べてみた
ベトナムで一番食べられるのがブンですが、他にも様々な麺があります。トラタロウの食べた物を紹介します。
小麦粉に卵を加えて生地を打った中華麺が ミー(Mì)。米麺に飽きてきたころ食べるととても美味しく感じます。細麺~中細麺が多く太麺はまだ見たことがない。
春雨は緑豆の粉で作る透明感のある麺。ベトナムではミエン(Miến)と呼ばれます。
フォーに関してはこちらもご覧ください。
世界のB級グルメ/02 フォー in ベトナム に移動します
フーティウ(Hủ Tiếu)は作り方の基本はフォーと同じで、乾燥過程が少し違うだけ。南部ソクチャン発祥で、フォーより細く仕上げます。南部ではフォより人気があります。
フォーの作り方で紹介したバイン・クオン(Bánh cuốn)を大ぶりに切って麺として食べるとバイン・ウオット・ノン(Bánh ướt nóng)になります。ブンよりも歯ごたえがあるので、こちらの方を好きになる方もいるでしょう。
様々なブンを紹介していたら使用画像80枚近い『世界のB級グルメ』シリーズ屈指の大作となってしまいました。それだけブンにバリエーションがあるということですね。
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