現地食探求はバックパッカーのたしなみ。世界のB級グルメを紹介します。今日のお題はマレーシアのナシカンダー。料理ではなく料理店の形態のひとつ。多民族(主にマレー系、華人系、インド系)のマレーシアは多宗教(主にイスラム教、仏教、ヒンドゥー教)で、宗教の規定により行ける飲食店が限定される場合があります。そのなかでナシカンダーはマレーシア人の9割以上が行ける店であり、首都クアラルンプールでも一番見かける飲食店であり、定食屋みたいな存在です。
※ インド人は語尾の「R」を「ル」と発音することがあります。マレーシアにはインド人が多いのでそんな例も多々あり。Nasi Kandar も「ナシカンダール」と日本の文献で表記されることもありますが、現地での発音はナシカンダーです。
※ ナシカンダーはご飯+オカズの定食的飲食が主流ですが、大型店はメニューが豊富でかなりのインド、マレーシア飲食物をカバーできます。ナシカンダー・メニューを深掘りした
世界のB級グルメ/37 ナシカンダー(メニュー探求編) in マレーシア も製作予定中
ナシカンダーはどんな店かな?

店頭には各種のオカズがずらりと並ぶので自分でオカズを選んでよそうナシチャンプル店かな? と思っていました。
でもオカズは店員がよそってくれるし、タンドリーチキンやナンが焼かれているのでインド料理店みたい。
でもお客にインド人いないしヒンドゥー教徒が絶対食べない牛肉料理もあるのでなんか違う。
マレーシアに移住してやっと判明しました。イスラム系インド料理店だったのです。
※ ナシチャンプル店に関してはこちら
世界のB級グルメ/06 ナシ・チャンプル in マレーシア に移動します。
インド人の8割以上がヒンドゥー教徒なのでインドはヒンドゥー教の国と言っても間違いではありません。
でもインドには世界3位のムスリム人口がいるのです。人口の14%を占め約2億人とインドネシア、パキスタンに続く規模。
ちなみに両教徒は大変仲が悪いです。両教の教義の違い、イスラム王朝がインドを支配した歴史的因縁、印パ戦争、カシミール問題、政府のヒンドゥー至上主義の伸長、などが背景。

※ ナシチャンプル店についてはこちら 世界のB級グルメ/06 ナシ・チャンプル in マレーシア
※ 現インド政権はヒンドゥー教徒を主体とした国造りを進めるヒンドゥー至上主義をとっています。これに伴いムスリムが迫害を受け、安全確保のため集まって住む「集団分離居住」が進んでいるとか。
マレーシアのインド人は英植民地政策により南インドから来たタミル人が中心。ヒンドゥー教徒が多いが、ムスリムのインド人も来ておりMamak (語尾のKは発音せず「ママッ」という感じになります)と呼ばれています。タミル語で「おじさん」という意味らしい。

Mamak の店なので Mamak Stall と言う場合もありますが ナシカンダーと呼ばれるほうが普通。Nasi は「ご飯」で Kandar は「天秤棒」と言う意味。その昔、天秤棒でご飯とオカズを運び労働者に売りだしたのが始まりです。ペナンの発祥とされナシカンダーのチェーン店もペナンから広がった店が多いとか。
ご飯にオカズを盛った定食か丼物みたいな食事がナシカンダーなのですが、今でも店頭にオカズが並べられ客の求めに応じてご飯の上に盛るのがナシカンダーの情景。



現在も小規模なナシカンダーはご飯とオカズのみの商売をしていますが、大規模店はインド料理のみならずマレー系料理や洋風料理(さすがに和物はありません)まで入れて食のパラダイスと化しています。
小規模店は昔ながらのショップハウスという商業建築に入っている所もあり、なかなか情緒のあるたたずまい。残念ながら閉店してしまう店もありますが。


看板に RESTORAN や BISTRO と書く店もありますが多くは NASI KANDAR です。
店の名は店主の名がけっこう使われますが、ムスリムですのでアラビックな名前ですね。旅館だった建物の店名 KUDU BIN ABDUL はアラビア語で「アブドゥルの息子クドゥ」の意。BIN が「~の息子」を意味し、かのオサマビンラディンも同じ用法です。
アラビア語の冠詞 AL (英語のTHEに相当)がついた店名も多い。アルカイダもこれで直訳すれば「THE基地」なのです。



アラビア文字を図案化したようなカリグラフィーでコーラン(クルアーン)の聖句を描いた壁飾りが掛けられているのもあるある。メッカ大巡礼の参加者は HAJI と呼ばれて尊敬されますが、ちゃっかり店の名に入れたりもしています。聖地メッカ(マッカ)のカーバ神殿写真を飾る店も HAJI がいるのでしょう。


その他の特徴
・大型店はタンドール(インド式垂直オーブン)を供えタンドーリチキンやナンを提供しています。
・チャパティ、トーサイ(ドーサ)、アッパム、イドゥリなどインド朝食系もあり。
インドには無いマレーシア独自の朝食ロティチャナイもありママッ料理だとか。
※ 世界のB級グルメ/15 朝食 in インド に移動します。
※ 世界のB級グルメ/07 ロティチャナイ in マレーシア に移動します。

・大型店は24時間営業が多く、いつでも行けます。
・当然酒類はありません。その代わり甘い飲料がすごく多い。デザート系は少ないかな。
・エアコンはありません。別料金エアコン部屋がある店もある。
※ マレーシアは年中夏で暑いのですが、直射日光の当たらない屋内はそんなに暑くありません。そのため大衆料理店は天井ファンしかないのが普通でありそれで十分。エアコンの有無が大衆店と高級店を分けるひとつの指標になります。
どんなオカズがあるのかな?

店にもよりますが20種類前後のメインになるオカズが並びます。大別すると肉系と魚介系ですね。当然豚肉はなくて鶏肉が中心です。インド料理店だとヴェジタリアン物がありますが、イスラム系インド料理なのでありません。


鶏肉はアヤム(Ayam)と言いますが、揚げ物の他に揚げてから煮込む料理が多いです。一番人気はアヤム・バワンで揚げた鶏肉をバワン(玉ねぎ)たっぷりのソースで煮込みました。アヤム・マドゥ(直訳は若鶏)は中華甘酢あんかけ風で日本人にもなじみの味です。アヤム・キチャップは甘目の醤油を使う煮込み物。KICAPは中国南部の醤油系調味料でマレーシアにも伝わります。やがて名前だけがケチャップとしてイギリスのトマト調味料に使われてしまいました。上記の鶏料理はマレー系が多いですね。



魚介系は魚( Ikan )、エビ( Udang )、イカ( Sotong ) などのカレー煮込みがありますが、鶏より高め。魚の頭をそのまま煮込んだフィッシュヘッドカレーは見た目のインパクトが強い一品。


その他牛肉( Daging )はちょっと高く、羊肉( Kambing )は高級肉とされます。


ビリヤーニ(スパイス炊き込みご飯)を用意している店もあります。付け合せの野菜はキャベツ、インゲン、オクラなどの炒め物がありますが3~5品ぐらいと少な目。


※ 煮込み料理のソースをクア(Kuah)と言います。日本の紹介文だとカレーと書かれている場合がありますが、あまり粘りは無くサラリとしたそれは日本人の感覚のカレーとは別物。種類が多くて美味しくて、クアをかけるだけでご飯が進みますね。
どうやって注文するのかな?
ご飯+オカズのセットはオカズコーナーに行って係に直接注文し、よそってもらいます。ほとんど指さしで注文できますが、ポイントを覚えておけば更にラクチン!
① 店内で飲食 か 持ち帰りか
最初に聞かれるので店内なら「マカン」(食べる)、持ち帰りなら「ブンコス」か 「テイクアウェイ」(イギリス英語ですね)でも通じます。店内ならテーブルを指さしてもOK。
② 白飯 か ビリヤーニか
白飯なら「ナシ・プティ」、putih は「白い」です。ナシコソン(Kosongは「空・ゼロ」ですがプレーンの意味もあります)でも通じますが、ご飯だけ追加したい時のフレーズでもあります。

街中でよく見るのが JAWATAN(職席) KOSONG という看板。「職席に空きあり」という求人の決まり文句でした。
③ 美味しそうなオカズを指さしで注文
辛い物が苦手な方は「ノースパイシィ」と言って、すすめられる辛くない物から選びましょう。まあ外見が赤い物は辛い物が多く、黄色い物はそんなに辛くない傾向があります。
チキン物は骨付きもも肉と胸肉で大きさがかなり違う店がありますが、値段に違いは無い場合がほとんど。食欲と嗜好に応じてレッグ(もも肉)かブレスト(胸肉)かを指定。ちなみに骨なし鶏肉はほぼありません。
あなたが大食漢ならオカズ2品やご飯大盛にチャレンジしてみて。
④ クア(ソース)指定
ナシカンダーとは「白飯をクアで食べる場所、肉は添え物」とトラタロウは思っています。クアは注文したオカズのそれのみにする、他のオカズの物をかけてもらう、ミックスするの3選択。
トラタロウはミックス派なのでクア・チャンプル(Kuah Campur)と叫びます。チャンプルは混ぜるという意味ですが、沖縄のゴーヤーチャンプルーの語源とか。

ナシカンダー3大パフォーマンスとは?
① クアチャンプルで頼むと平べったいスプーンでソースをすくい取るようにしてひょいひょいかけてくれます。
② ナンを頼むと生地を伸ばし、小さな座布団のような物にのせてタンドールに貼り付けて焼きます。焼きあがると長いカギ鉄棒でひっかけてひょいと回収。
③ テタレ(ミルクティー)を頼むと空気を含ませて口当たりを良くするため、お茶を上からたらして下のカップで受け止めます。この動作を Tarek (タレッ、引っ張るの意)と呼ぶのがテタレの由来。


⑤ いただきます
空いている席についていただきます。マレーシアではカトラリーはスプーンとフォークが基本で、ナイフはありません。また手食(手で食べる)文化圏なのでテーブルにカトラリーが置かれてない場合がありますが、店員に言えば持ってきてくれます。
ここで係員が会計チェックに来て飲み物の注文も取ります。「Air ?」( 飲み物の意、発音はエアではなくてアイル)と聞くか、飲むしぐさをしてくれます。オススメはマレーシアの国民的飲料テタレ(ミルクティー)かテアイス(アイスミルクティー)。

⑥ 会計
店によってはオカズを盛ってもらう導線の最後にレジがあって飲み物注文と会計をします。
それ以外はテーブルで会計係が番号札をくれますのでそれをレジに出して会計。番号札が無い場合はレジでテーブル番号を申告。
ほとんどの店でレシートは出ません。次の画像は貴重な?レシートの例です。上から
・Nasi Putih …白米
・Ayam Kicap …鶏肉甘醤油煮込み
・Sayur …野菜(種類は関係なし)
・Teh Ais …アイスティー
・Naan Biasa …プレーンナン
・Ayam Tandoori …タンドーリチキン





在住者オススメ、旅行者がアクセスしやすいナシカンダー紹介
クアラルンプール市内ならナシカンダーはいたる所にありますが、旅行者がアクセスしやすいナシカンダーを紹介します。いずれもトラタロウが行ったことがあり、味や価格に問題が無い所です。多くは24時間営業。
LCC でマレーシアに来た時は KLIA2空港に到着します。市内行きバス・長距離バスが発着するGフロアーにあるのが ABC ONE BISTRO 。空港の店なので高いかな?と思っていましたが、そんなに高くはありませんでした。「ファースト・ナシカンダー」または「ラスト・ナシカンダー」としてオススメです。

クアラルンプール一番の繁華街がブキビンタン。飲食店は多いのですが高めの価格設定。その中でリーズナブルに食べられるのが UMAR。MRT駅がある交差点のマクドナルドがある通路を北に進むと旧HSBCの茶色いのっぽビルがありその手前にあります。

旅行者必見が双子タワーのペトロナス・ツインタワー。KLCC(Kuala Lumpur City Centre)と呼ばれる地区でタワーの下にはスリアという巨大モール。モール内に飲食店は多いがいずれも高いのです。
ツインタワーの十字路からアンパン通りを西に200mにある PELITA は大規模店でメニューが豊富。中心部なのに駐車場もあるので24時間客足が絶えません。

独特の雰囲気とリーズナブルなお宿が多いためバックパッカー御用達なのがパサースニ駅隣接のチャイナタウン。北側のコタラヤ・バスターミナルとコンプレックス・コタラヤの間にあるのが AL Bail 。400mほど西にあるセントラルマーケットの向かいにも店があります。
ちなみにこの辺りは旅行者が多いのでマレー系、中華、インド料理と主な料理店がそろっていますね。ついでにコンプレックス・コタラヤはフィリピン料理店が多い。
※ コタラヤのフィリピン・ビルに行ってみた に移動します。

旧市場ビルを改装したのがチャイナタウン北西の土産物市場セントラルマーケット。そこに隣接する ZAKHIR は小規模店ですが、昔ながらのショップハウスに入っているため雰囲気は抜群。

交通の要衝がKLセントラル駅。駅前はリトルインディアでもあるのでインド料理店が多いが、モノレール駅の下にある ABC ( Always Best Choice だそうだ)はコテコテのナシカンダー。隣には ABC ONE もある。
リトルインディアのひとつマスジッド・インディアはあまり日本人は来ないがローカルな雰囲気でオススメの穴場観光地。ここのABCは客層がほぼムスリム、ほぼ全員手食です。

KLセントラル駅から徒歩5分。多くのナシカンダーは大衆料理店の雰囲気だが Mamak Cafe はちょっとオシャレな感じ。ローカルな雰囲気が苦手な方も入りやすいのです。マスジッド・インディアのスーパー・ローシャムマート横にも店があります。

ナシカンダーの中では高級路線を打ち出す Hameediyah はペナンのナシカンダー発祥の店とか。ブキビンタンにもありますがマレー系・インド系の服飾店・貴金属店が集まるマスジッド・インディア店がオススメ。LRTバンダラヤ駅から徒歩5分。マスジット・ジャメ駅からは徒歩10分でここから行った方が街のディープな雰囲気を味わえます。観光名所ムルデカ広場は近くです。

地元民に絶大な人気を誇るのが SADDAM 。2026年10月、アクセスしやすいマスジット・ジャメ駅から徒歩2分に新店舗がオープンしました。ところがグーグルマップだと違う位置に表示されていました。バンダラヤ駅から徒歩10分にもありますが、それ以外の店はアクセス困難。



多民族・多宗教・多文化のマレーシアは民族によって行けない・行かない飲食店があります。ほぼムスリムのマレー系は豚肉を使う華人系飲食店には行けませんし、華人系はあまりマレー系飲食店に行かない傾向があります。ナシカンダーは両民族共に行きます。。牛肉料理があるのでヒンドゥー教徒はいきませんが、キリスト教徒のインド人はいきます。
なんだかんだで9割以上のマレーシア人が行ける飲食店として繁盛しているのです。
次回は多彩なナシカンダーのメニューを深掘りした
世界のB級グルメ/37 ナシカンダー(メニュー探求編) in マレーシア を予定しています。

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