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世界のB級グルメ/01 黒パン in ロシア

 現地食探求はバックパッカーのたしなみ。世界のB級グルメを紹介します。
今日のお題はロシア人のソウルフード黒パン。

レンガのような黒パン
レンガのような黒パンの塊(ラトビアの市場にて)

ハイジの食べた黒パン

 トラタロウの世代は、宮崎駿監督の名作アニメ『アルプスの少女ハイジ』をリアルタイムで見ています。そんなに熱心に見ていたわけではないが、印象にのこっているのは大都会フランクフルトに連れていかれたハイジが、白いパンを大好きなおばあさんに持って帰ってあげたいと思うシーン。

 ハイジの時代白いパンはだいぶ普及していましたが、アルプスの山奥の村に住むハイジ達の常食が黒いパン。あらためてアニメの映像をチェックしてみたら、確かに黒パンらしく描かれていました。
 当時の子供には白いパンは普通のパンであろうと察しがつきましたが、黒パンは想像もつかず不味いパンなのかな、というぐらいの認識でしたね。

 アニメを見た当時の子供がけっこうやったと思うのが、家にあったチーズを切ってガスコンロであぶってみること。トロリととろけるチーズを期待したのに焦げるばかりでがっかり。
 一般に食べられていたチーズはプロセスチーズで、ラクレットのような加熱でとろけるチーズはまだありませんでした。その後とろけるチーズが発売されたのはアニメの影響?

黒パン(ライ麦パン)とは何

 では黒パンとは何かというと単純にライ麦で作られたパンです。
 麦類は4種類あります。

  • 小麦…麦の王様、製粉してパンや麺類に加工しやすい、グルテンの量で薄力粉、強力粉に分ける
  • 大麦…栽培しやすいため最初に作られたが、粉食に向かず現在は酒類の原料の中心、麦茶は大麦を煎って煮だしたものです
  • オーツ麦(燕麦)…オートミールなどで食べられるが、家畜飼料が中心
  • ライ麦…味では小麦の下、大麦、燕麦の上といった位置づけ、小麦より寒さに強い

 やはり麦の王様は寒さに強く、味も良く、加工に幅がある小麦ですが、小麦も満足に収穫できないくらい寒くてやせた土地が多いのがロシア、ドイツ、バルト三国、東欧、北欧など。
 現在でも黒パンが食べられているのはこれらの国であり、ハイジが住んでいたアルプス山脈の上部もライ麦に頼る土地だったのです。つまり黒パンは貧しさの象徴ともいえます。
 黒パンといっても本当に黒いわけではなく、薄灰色や茶色でライ麦粉の量や発酵、焼き方で微妙に色は変わります。少なくとも白くはありませんね。

パン屋の黒パン
ラトビアのパン屋、半分近くが黒パン系

 ちなみに今ではおしゃれなデザートであるクレープも、ライ麦と同じく貧しい土地の作物であったソバをおいしく食べる工夫でした。ロシアではゆでた粒ソバも伝統的な主食の一つです。

ロシアで黒パン実食です

バイキングの黒パン
朝食ビュッフェの黒パン

 今でこそネットで黒パンのお取り寄せも可能ですが、トラタロウが初めてロシアに行った1997年(平成9年)あたりでは、地方都市で黒パンの入手は不可能で、ロシアで食べたのが黒パン初体験です。

 当時のロシア旅行は旧ソ連時代のシステムが存続しており、あらかじめホテル、主要交通手段を予約しておかないとヴィザがおりないため、ロシア滞在中は全泊ホテルでした。現在は予約なしで入国し、民宿などにも自由に泊まれます。

 ホテルの朝食で初めて黒パンに出会い、いただいた感想は
①固い、ボソボソ
 小麦粉のパンがふくらんでいるのは、含まれているグルテン、小麦のタンパク質が発酵ガスを生地にとじこめ、焼くと生地を膨張させるからです。グルテン含有量の少ない薄力粉でパンを焼くと、あまりふくらまないので、含有量の多い強力粉を使います。
 ライ麦粉はグルテンはほとんど無いので、発酵させても少ししかふくらみません。パンとは言っても小麦粉パンとはまったく別の食感を覚悟してください。
 ちなみにライ麦粉だけで作った黒パンは数か月保存可能ですが、だんだん固くなり、やがてナイフでも切れないぐらいになるそうです。もはや食品かと疑うレベルですね。

②へんな酸っぱさがある
 小麦粉のパンの発酵に使われるイースト菌は香りがよく、生地の段階でも良い香り、焼けばまた格別の香りですよね。
 黒パンはサワードゥという発酵材を使います。これは家庭で簡単に作れるため、アメリカの開拓時代をテーマにした『大草原の小さな家』シリーズに登場する自家製パンもサワードゥを使っています。
 サワードゥは乳酸菌を主体とするパン種なので、パンに焼いても酸味が残ります。酸っぱいパンというのは、イースト菌パンの甘い口当たりしか知らない日本人にはちょっと異質です。

➂カビくさい
 黒パンについて調べると、乳酸発酵で独特の風味が生まれるとありました。独特の風味というと聞こえがいいですが、初めて食べた黒パンはカビくさい風味としか思えませんでした。
 ボソボソ、酸っぱい、カビくさい。このどこに美味しいと思える要素があるのよ。ハイジがおばあさんに白パンを食べさせてあげたい気持ちがわかったのが収穫です。

3回目で好きになるのが黒パン?

黒パン
ロシア人の愛してやまない黒パン各種

 前述したように最初のロシア入りが1997年。すでにソ連は崩壊していましたが、トラタロウの学生時代は米ソ冷戦が続いており、経済的に落ち目のソ連が軍事侵攻で一発逆転を図り、第三次世界大戦が始まる、という可能性もあった時代です。
 冷戦時代のソ連は一般人が気軽に観光に行けるような国ではなかったため、最初はロシアに入国するだけでドキドキしました。

 2回目のロシア入りは2004年(平成16年)、極東ロシアのウラジオストックとハバロフスク。
 ロシアもだいぶ市場経済化が進み、街には日本からの中古車があふれていました。ロシアに来たのだからと黒パンも食べてみましたが、評価は初回と同じ。

 3回目の黒パン体験は2007年(平成19年)のウクライナ。旧ソ連の構成国で文化、特に食文化は限りなくロシアに近い国なので、当然のごとく黒パン文化圏。
 ここで3回目の黒パンにチャレンジしたら、あら不思議、なんだか美味しく感じられるではありませんか。ボソボソの食感も酸っぱさも、イヤだったカビくささもそんなに気にならず、「これはこれでありだな」ぐらいには思えるようになりました。

 実はにたような体験がいくつかの食物であります。オリーブ、インディカ米、トムヤンクンなどは最初はイヤだったのに、何回か食べ続けているうちに好きになっちゃいました。
 人間の味覚は保守的で、異質な味は最初拒否反応を起こしますが、慣れると受け入れる事もあります。何でも3回は食べてみないと本当の美味しさは分からないのかもしれません。
 最新のロシア入りは2018年。黒パンも普通に美味しくいただけますが、ロシアで食べるから美味しく感じるのかもしれません。日本でもお取り寄せするようになったら本物ですね。

※小麦粉のパンが普通に食べられる現在でも、黒パンはソールフードとして人気です。
 ハイジのおばあさんも黒パンの味が嫌いだったわけではないと思います。ただ固すぎて歯が弱っている人には黒パンを噛むのが大変だったのでしょう。

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この記事を書いた人

 トラタロウは元世界史・地理の教員です。授業のネタにするため毎夏・冬休みにバックパッカーとして海外旅行に出かけ、83ヶ国を訪れました。旅行情報や旅ネタ、海外食生活を紹介していこうと思います。
 2022年(令和4年)末よりマレーシアに移住しました。クアラルンプールに住み、姉妹ブログ『KLダイアリートラタロウ』を作って、移住やマレーシアの情報を発信しています。よろしかったらご覧ください。
https://www.logrecodocu.website/
 
 

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