現地食探求はバックパッカーのたしなみ。世界のB級グルメを紹介します。本日のお題は削って作る中国の刀削麵。
あれは20年?いや30年前?ずいぶん昔のCMです。煮えたぎる大鍋の前で生地の塊をもった中国の職人が、右手に持った刃物を使い、目にもとまらぬ早業で生地を削ります。削られた生地はヒョンヒョンヒョンと踊るように宙を舞いながら大鍋の中に飛び込んでいく。
「職人の技」を強調する内容で、何のCMかも忘れてしまったが、これが刀削麺とトラタロウの最初の出会いです。今では日本でも食べることが可能な刀削麺ですが、以前は中国に行かないと食べられませんでした。
※ 日本語での読みは「とうさくめん」または「とうしょうめん」
刀削麺とはどんな麺?
麺の作り方はウドン・ソバのように生地を伸ばして畳んで切る、ソウメンのように生地を伸ばして作る、冷麺・パスタのように圧力をかけて穴から押し出す、などがあります。
刀削麵は文字通り生地を刃物で削って作る中国は山西省(北京の西)の伝統料理です。そこは昔から降水量が少ない麦作地帯で、麺料理の本場でした。
伝説によればモンゴル人の元に支配された時、反乱を警戒されて料理用の刃物まで禁じられたため、金属片で生地を削ったのが始まりとされます。
刀削と言いますが、刀と言うよりは金属片に近く、職人が自分の好みに応じて自作することもあるとか。
特徴としては、金属片の削りに使う部分が「くの字」になっており、これで削られた生地は中心部が少し厚く、周辺部が薄くなります。これを茹であげると周りはピラピラでのど越しが良いが、中央が厚いため噛むとモッチリとした歯ごたえを残す独特の食感の麺となるのです。
生地は小麦粉・塩・水だけのシンプルな物であり、削った生地がそのまま鍋に入って茹であがるので作り置きもできず、味は職人の腕に左右されます。
これが刀削麵がなかなか広まらなかった要因かもしれません。トラタロウは中国に7回行ってますが、最初は華北以外では刀削麵は見かけませんでした。
前回中国に行った時に見たのが、刀削麵のロボットというか削る機械。人間にやらせると難しい熟練の技になるが、うまく機械化すれば簡単に刀削麵が作れます。
なんでも2011年に機甲厨神という名で開発され広まったとか。日本でも同じような物を開発する店があるようです。
これがあれば職人がいなくても刀削麵の店が開けますね。
※ 短いですが動画をお楽しみください
ただ機械や熟練の職人がいれば店がはやるか、というと別な問題もあります。実はトラタロウが以前住んでいた街に刀削麵屋が開業したことがあります。行ってみて「これは長く続かないのでは」と思いましたが、予想通りほどなく閉店しました。
でも味の問題ではありません。その店で麺を削っていたのが職人か機械か分かりませんが、削る場面が見えない店だったのです。刀削麵が当たり前の地域は別ですが、なじみのない土地では麺を削るところを見せないとインパクトゼロです。
日本でもかば焼き、たこ焼き、タイ焼き、ソバなど熟練者が巧みな技で焼く・作るところを見ると食欲・購買欲が刺激される食べ物がありますが、刀削麵もそのひとつ。あの見事な削り技を見なければスイトンの出来損ないみたいな麺で終わってしまう。
本場の山西省に行ってみた
前々回の中国旅行(2017年夏)は刀削麵の本場である山西省に行ってきました。省都ではありませんが第二の都市で仏教遺跡龍門のある大同(タートン)は北京から夜行列車で一晩。
駅前の食堂では朝から職人が麺を削る姿を見受けます。
お昼ご飯は繁華街にある刀削麵専門店に行ってみた。店の前で職人が麺を削っているかと思ったら無し。まあ、本場なので見せなくても皆知っているか。
久々の本格的な刀削麵は美味。モチモチでツルツルの食感は刀削麵ならでは。
生キャベツ、ネギ、漬物などが取り放題無料だが本場の流儀なの?
ちょっと違和感があったのが地元の人は麺は食べるが、スープはほとんど飲まない感じだったこと。日本はけっこうスープ重視だが、中国は麺重視かな。
刀削麵のスープや具は決まったものは無く、メニューを見ても牛・豚・鶏と様々なスープ・具が使われていた。
一応定番と言われているのが一番下の「西紅柿鶏蛋刀削麵」です。西紅柿はトマト、鶏蛋は鶏卵。まだ肉が貴重だったころに生まれて親しまれた味のようだ。
刀削麵の乾麺てどうなの?
初めて中国に行ったのが1991年の夏。30年で急速に変化した国ですが、変化のひとつが超級市場(スーパーマーケットの漢字訳)の発展です。中国に行くたびにスーパーを見に行きますが、麺コーナーはすごく充実してきました。
特に刀削麵は様々なタイプが登場していますが、当然機械製造の麺でしょう。職人の技で作られてきた刀削麵の乾麺てどうなのよ。
今までは旅の空で調理はままならず、疑問を感じるだけでした。しかし、2022年末からマレーシアに移住し、クアラルンプールに住みはじめます。華人(中国系マレーシア人)が多い国で中国食品は豊富ですが、スーパーで刀削麵の乾麵見つけました。
1人前100g、5人前しか入っていないのに他の中華乾麺に比べると2倍くらいして高い。
「とうしょうめん」と日本語が入っているが、「ひらがな」は丸くてカワイイという認識なのでよくあること。しかし…
製造元はマレーシアの企業だが「全日本麺総合技術研修センター」と「香川、日本レシピ」という謎の文字。
調べてみると「さぬき麺機」という日本企業の運営する麺類の総合プロデュース学校みたい。ここでこの刀削麵の乾麺や機械が開発されたのか。
※ さぬき麺機株式会社のHP に移動します
「百聞は一見にしかず」、考えるよりも乾麺を茹でてみましょう。
乾麺を取り出してその表裏をみると表側に膨らみが、裏側に溝があるのが分かります。製麺の過程で中央部に圧力をかけて凸凹を作ったのでしょう。でも表の膨らみはよいですが、裏はへこんでいるのでプラマイゼロ?
乾麺を茹でてみます。長さは10cm以下。本物も削って作るのでそんなものです。
茹でながら時々確認していると気づきます。あれ、中央部が厚くなってきた? そう、茹でていると裏側の溝がふさがるような感じになり、中央部が厚く横が薄い刀削麵の雰囲気が出てきました。なんだかイイカンジ!
茹で上がった麺は水でしめて、冷やし中華的にしてみました。食べてみて驚き、厚い中央部がモチモチ、薄い横の部分がピラピラという刀削麵の特徴がけっこう出ています。
麺の厚みは全体的に薄いですが、食感の再現度はかなり高いです。他の刀削麵の乾麺は分かりませんが、この製品はアタリですね。
大変美味しくいただいたが、この乾燥刀削麵にも問題がある。すごくのど越しが良いので、噛まなくてもツルツルと飲み込んでしまえる、という刀削麵の欠点も再現されていた。よく噛んでいただきましょう。
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