現地食探求はバックパッカーのたしなみ。世界のB級グルメを紹介します。今日のお題はマレーシアのバナナリーフカレー。バナナの葉で作ったカレーではなく、バナナの葉を皿にしてサーブされるカレー定食です。元々は南インドの習慣でしたが、南インドからの移民が多いマレーシアやシンガポールでインド料理店の名物となっています。
なんでバナナの葉を使うの?
当然見た目のインパクトが強い、という理由はあります。バナナの葉を皿に使う習慣の無い国から来た人は「なんだかすごく美味しそう」「一度食べてみたい」「インスタ映えするよね」と思うはず。
ただバナナの葉を食器に使うのは宗教・文化的な背景もあるのです。

理由① 他者の穢れ(けがれ)が移るのをふせぐ
多くの文化や宗教で「浄」(清らかな状態)を求め「不浄」(穢れた状態)を払うという考えがあります。日本人もこれを重視し塩や水で穢れを払います。お葬式で「お清めの塩」が渡される、力士が土俵に塩をまく、神社にお参りする前に手を洗い、口をすすぐのはこのため。
インド人の多くが信仰するヒンドゥー教も「浄」と「不浄」を重視し、特に他者の穢れが移ることを嫌います。外食で使いまわしされる普通の皿は(洗ってあっても)不浄な人が使ったかもしれません。使い捨てできるバナナの葉に食物を盛り、手で食べるのが一番安全なのです。インド人が「手食」(手を使って食事をすること)するのもこのため。

ヒンドゥー教徒でも外食で普通の皿・カップを使う人は大勢います。どの程度「穢れ」を意識するかはカースト、教育、個人によって違うのでしょう。でもインドに行くと昔から使われる「使い捨て容器」が多いことに気づき、食器の共用をなるべく避けているのが分かります。

理由② 宗教的に良い物である
ヒンドゥー教ではバナナは「豊穣」と「繁栄」のシンボル。たくさん実をつけるのが「家族の繁栄」を表わしますので、その葉を使うのは良い事ですね。
ちなみにココナッツの果水も「穢れ」を払うアイテムで、お祭りでは割って果水をまきます。

理由➂ バナナの葉には抗菌作用、防腐作用がある
「菌」の存在を認識する以前から体験的に知っていたのでしょう。柿の葉寿司の柿の葉にも同じ作用があるといいます。




インド渡航歴6回のトラタロウですが、実はインドではバナナリーフカレーはあまり見ません。インドのランチタイムでは金属のお盆・皿で提供されるカレー定食ターリー(南部ではミールス)が主流なためかな。
世界のB級グルメ/03 ターリー(ミールス)in インド に移動します

現在バナナリーフカレーの本場は南インド系移民が多いマレーシアとシンガポール。
本国で見なくなった物が海外移民社会で続いていることがままあります。インドでは無くなったヒンドゥー教の祭りタイプーサム(参拝者が苦行を行うことで有名)が続いているのもマレーシアとシンガポールです。
2023ヒンドゥー教の奇祭タイプーサムに行ってみた②苦行・参拝編 に移動します

2023年クアラルンプール
KL市内のほとんどのインド料理店でバナナリーフカレーが提供されますが、一部の店ではミールス(ターリー)しか出していません。バナナリーフカレーは基本ヴェジタリアン食でシンプルなため、価格を高く設定しにくいからかな? ターリーは皿数を増やしたりして単価を高くできますね。


どんな料理がでるのかな?
バナナリーフカレーは定食の一種。様々な食品がワンプレートならぬワンリーフの上にのっています。次の画像は提供される食品が全部記載されている親切メニュー。
どんな食品がのっているか紹介しますが、絶対ある物と有無が店によって違う物があります。
※ 基本的にヴェジタリアン食品です
肉食は穢れるのでヴェジタリアンが多いのだ。

食品① ライス
バナナリーフカレーはライスを食べるための定食です。別に注文しない限りチャパティやナンなど他の主食はつきません。
普通のインディカ米が出ますが、ポンニライス(Ponni Rice、もみ殻つきの米を蒸してから精米したよりパラパラ、フワフワのライス、パーボイルドライス)などもあって選べる場合もあります。

食品② カレー
3~4種類のカレーがでるが、日本のそれとは全然別物。カレースープと思ってください。
とろみは全然なく、具もあまり入っていない場合があります。辛さも控えめでアッサリしており、いくらでも食べられる。
※ 日本的なカレーに近い物が欲しかったら
Butter chicken masala を注文しましょう。

食品➂ 野菜のおかず
これも3~4品でましてカレーと同じく優しい味です。
毎回同じ品がでる店もありますが、たいがいの店は日替わり的に変化あり。煮物が多いがマヨサラダみたいの物がでる時もあり。

食品④ パパド (Pappad)またはパパダム
レンズ豆やウラド豆で作った生地を揚げたセンベイで箸休め的にかじると美味しい。
パパドは全般的な名称で南インドではアッパラム(Appalam)と呼びます。インド食材店で生地を売っているので自宅でも作れますが、揚げるのが面倒だ!


食品⑤ モルミラガイ(Mor Milagai)
乾燥トウガラシをバターミルク・塩に漬け込み、天日干ししたあとに揚げた物。これも箸休めに最適。
好き嫌いがあるので無い場合もありますが、言えばくれます。トラタロウは絶対もらうほど好きで、これだけ買いたいくらい。

以下の物はでない店もあります
食品⑥ ラッサム(Rasam)
タマリンドで酸味をつけたスープで小さな金属カップででます。これをご飯にかけても美味い。
食品⑦ アチャール(achar)
インドの漬物で酸味の効いた油漬けがだされる場合が多い。好悪が分かれる味。
食品⑧ ニールモア(Neer Moor)
バターミルクにスパイスや野菜を加えて冷製スープみたいな物
食品⑨ お菓子
デザート的に少しだけ。セラムデモリナ粉で作った練り菓子ケサリの場合が多い。

ヴェジタリアン専用の店もありますが、たいがいの店は肉・魚介カレーもあります。ヴェジタリアン用のバナナリーフカレーだけでは物足りない人は別に小皿で注文しましょう。
チキンなど肉系カレーをだす店もありますが、汁だけで肉は入っていません。
おかずの実例です


ラッサム、アチャール

ここのはカレーの具も多い


カレーソースの具が少ない

左からキャベツ、生キュウリ、ジャガイモ
この項目の最初に挙げたメニュー画像に「UMLIMITED」の文字がありましたが、バナナリーフカレーの基本セットはお代わり自由です。でも若い男性を除く多くの日本人は、最初によそわれた分量を完食すれば満腹になりますね。トラタロウはパパドとモルミラガイだけ多めにもらっています。


バナナリーフカレー実食です

では実際にバナナリーフカレーを食べてみましょう。年々物価上昇のマレーシアですが、大衆店でヴェジタリアン物なら10リンギッ(¥350)ぐらいから食べられます(2025年7月の相場、換金レート)。ランチの中では安い方ですね。
注文は「バナナリーフ、ヴェジ」と個数を言うだけ。さあ、何が来るでしょうか。


残すのは良くないので食べきれる分量を指定しましょう。特にご飯は言わなければ大量に盛られる場合があります。足りなければお代わりできます。


カレーはかけてくれる場合と容器が置かれ自分でかける場合があります。
自分でかける時はかけすぎ注意。スープ状のカレーですし、バナナの葉は平たく縁も無いのでかけすぎるとこぼれる。
3種類ぐらい来ますので、全部を少しかけ味を見てから気に入った物をかけ足すのがオススメ。

あとは自由に食べればよいですが、カレー、おかずを混ぜ合わせて「自分の好きな味」を作るのが楽しい食べ方。
前述したようにインド人は手で食べますが、スプーン、フォークも用意されています。
トラタロウはインド人に教わった技を使い手で食べるのが好き。コツは指の先端で丸めるようにすくい、口元で親指を使って押し込む感じ。左手は不浄の手なので使用禁止。
ターリーやバナナリーフは手で食べたほうが美味しい気がします。食前食後は手を洗いましょう。

食後にバナナの葉を折れば終了の印。満足した場合は葉を手前に折り、不満がある場合は反対側に折るという習慣があるといいます。
でも外国人は気にしなくてもよいかな。

KL でバナナリーフカレーが食べられる場所
バナナリーフカレーは当然ながらインド料理店でしか食べられません。KL市人口の1割はインド系なのでインド料理店は多いのですが、地域によってインド料理店の有無があります。
マレーシア三大民族(マレー系、華人系、インド系)は文化・宗教が違うため混じり合いません。マレー系・華人系が多い地域にはインド料理店はごく少ないのです。
KL中心部のインド人街でアクセスしやすい場所を紹介します。

店がオープン(マスジット・インディア)
① ブリックフィールズのリトルインディア
華やかな装飾のインド系店舗が並びます。
クアラルンプールの中央駅であるKLセントラル駅とモノレール駅があるのでアクセスも楽。
モノレール駅から大通りを南西に進めば左手にインド料理店が並びます(緑マーカー)。この辺はこぎれいな店が多いので入りやすい。
さらに5分ほど進むと両側に店舗の並ぶディープなインド人街となります(赤マーカー)。こちらの方が大衆店が多く、バナナリーフカレーの他に大皿から自分で好きな料理を選ぶ(チャンプルと言います)も選択可能。

黄色マーカーはモノレール駅
※ チャンプルについてはこちらをご覧ください
世界のB級グルメ/06 ナシ・チャンプル in マレーシア に移動します



インド人街

② Jalan Scott は穴場
ブリックフィールズのインド人街は観光地でもありますが、KLセントラル駅の北、徒歩10分ほどの Jalan Scott はヒンドゥー教寺院が4つも並ぶインド人居住区。観光客の姿はほとんど無く、周辺インド料理店もヴェジタリアン専用でさらにディープな場所。在住者オススメの穴場スポットです。

※ Jalan Scott のヒンドゥー教寺院は知られざる名所、その様子はこちら
ヒンドゥー教新寺院オープンに行ってみた に移動します
➂ Lebuh Ampang も穴場です
ここはマスジット・ジャメ駅から徒歩2分、チャイナタウンからも徒歩10分という中心部にあるリトルインディア。100mほどの通りの両側に大衆店~中級クラスのインド料理店が10軒ほどあります。
ちなみに大衆店と中級店の違いはエアコンの有無かな。バナナリーフの味はそんなに変わらないと思います。




④ Jalan Masjid India
マスジット・ジャメ駅から徒歩3分の昔からあるリトルインディア。
インド料理店は中級店が点在していて探しにくいですが、華やかな金製品店やインド服店を見て回るのが楽しい一角。
ちなみに南アジア系とマレー系の繁華街で東アジア顔はほとんど見ません。

バナナリーフカレーのチェーン店
ローカルな場所や大衆店で食べるのが苦手な人はバナナリーフカレーのチェーン店がオススメ。
クアラルンプール市内のモールに入っているのでキレイで清潔感はあります。

「バナナだぜ!」かな?

サンウェイ・プトラモールの店に行ってみました。チキン・魚・カニのカレーソースもありますが、ヴェジカレーソースより美味しいということもありませんでした。
根がバックパッカーのトラタロウは、ローカルな場所の大衆店で地元民に混じって食べるほうが好きですが、そこはお好みで選んでください。


インド系住民が50万人近くいるシンガポールもバナナリーフカレーの本場ですが、マレーシアにはその6倍のインド人。バナナリーフカレーだけでなく様々なインド料理も楽しめます。
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