現地食探求はバックパッカーのたしなみ。世界のB級グルメを紹介します。今日のお題はベトナムのアイスコーヒーであるカフェスアダー。ベトナムでコーヒーというと違和感があるかもしれませんが、フランス植民地時代にコーヒー文化が伝えられました。その後山岳部を中心にコーヒー樹の栽培が進み、現在はブラジルに次ぐ世界第2位のコーヒー生産国。知られざるコーヒー大国ベトナムのカフェ事情です。
カフェスアダーって何だろう?
ベトナムは熱帯の国なので北部の山岳地帯などを除いては基本的に一年中暑い国。旅行で炎天下の街を歩いて疲れたら、木陰のローカルカフェで飲む一杯のカフェスアダーが最高。
深煎りのコーヒー豆を使ったアイスコーヒーで基本最初から甘味とミルクが入っています。苦みと甘味、まろやかなミルクの味が疲れた体にしみますね。日本のアイスコーヒーとは似て異なるものです。
ベトナム語(アルファベット表記の言語)でCà phê sữa đá と書きますが、
Cà phê はコーヒー、sữa はミルク、đá は氷を意味します。
ベトナムは19世紀中期からフランスの植民地支配を受けました。その影響はフランスパンを使ったサンドイッチであるバインミーなど食生活にも及んでいますが、カフェスアダーもそのひとつ。
豆知識① アイスコーヒーは日本発祥?
明治時代に井戸でコーヒーを冷やして飲んだ、という記録があるので日本発祥?
少なくともトラタロウが旅行を始めた30年前、欧米では見かけませんでした。今はスタバとかあるのでアイスコーヒーもありますが、あれは日本のそれとは違うような気もします。カフェスアダーもそうですが、国ごとの「アイコー」があるのかな。「レイコー」の方が良いですか?
カフェスアダーのポイントは
① ロブスタ種のコーヒーを使用
② コーヒー豆はフレンチローストに焙煎
➂ 独特のドリップ器具でコーヒーを抽出
④ あらかじめコンデンスミルクが入っている
これらのポイントについて見ていきましょう
① ロブスタ種のコーヒーを使用
コーヒー豆と呼ばれる物はエチオピアが原産と言われるコーヒーノキの種子。
コーヒーの実は皮・果肉の内側に殻(パーチメントと呼ぶ)があり、この中でタネ2粒が対になっています。コーヒー豆(正確にはアカネ科でマメ科ではありませんが)が平たい断面を持つのは、平たい面どうしで2粒の豆が向かいあっているため。
※ コーヒー豆断面図 と検索すると画像が沢山でてきます
※ ひとつの実に種子がひとつしかはいっていないピーベリーというのもあります
豆知識② コーヒーの実は食べられる
コーヒーの実は丸く、熟すと赤くなるのでコーヒーチェリーと呼ばれます。そして果肉は甘味があり「食べることもできる」とか。
トラタロウも食べたことがありますが、果肉はすごく薄くて、甘みも少ないのでフルーツとして流通させるのはとても無理。本当に「食べることもできる」という程度のものでがっかり。
コーヒーの原産地はエチオピアと言われ13世紀頃からイスラム圏で飲まれ、17世紀に欧州に伝播。その後ヨーロッパ人による世界制覇で世界中に広まりました。
豆知識➂ コーヒーベルト
コーヒーは熱帯・亜熱帯の作物。世界で栽培可能なのは赤道の南北25度の線でコーヒーベルトと呼ばれます。日本だと小笠原諸島(北緯26度くらい)が一番近く栽培可能です。
コーヒーには三大品種があります
① リベリカ種 現在は生産量の1%以下、マレーシア・フィリピンなど
② アラビカ種 生産量の7割を占める。酸味と甘みのバランスが良く、香りも良いが耐寒性が低く、病害虫にも弱い。コロンビア、ブラジル、ケニア、ジャマイカなどが有名。
➂ ロブスタ種 カネフェラとも呼ばれ栽培しやすい。生産量の3割ほどですが、単品で飲まれるよりもインスタント、ブレンドなどに多用される。ベトナム、インドネシア、ウガンダ、ブラジルなど。
ベトナムで生産されるのはロブスタ種。2022年統計では生産量1位のブラジル(317万t)に続く第2位(195万t)なのにあまり有名じゃないのはインスタント、ブレンド向けだからかな。ちなみに第3位のインドネシア(79万t)もロブスタ種中心なのでマイナーですね。
ベトナム南部のとある町にコーヒー問屋があったので豆を見せてもらいました。
焙煎する前の生豆(きまめ)でしたが、見るポイントは粒の大きさ、粒がそろっているか、欠け割れの程度、色がきれいか、など。生豆のほうが素人にも分かりやすいです。
はっきり言ってかなり等級は低い。おそらく上級品は輸出して、低級品は国内消費という生産国あるあるかな。
等級が低くてもローストが深いとけっこうごまかせます。ましてやロブスタ種は苦みが強いのでアイスコーヒーであるカフェスアダーに向いてますね。
② コーヒー豆はフレンチローストに焙煎
コーヒーの味はまず品種で決まりますが、植えられた土地の気候その他で同じ品種でも味が変わります。そして重要なのが焙煎(ロースト)。
収穫されたコーヒーの実は皮・殻をはがれた後、洗浄・乾燥されて商品になります。この状態では生豆(きまめ)と呼ばれますが、まだ味も香りも無いし固くて粉にもできません。
コーヒー豆は焙煎されることで初めて味と香りが出るのです。また焙煎の度合いで味も異なってきます。
豆知識④ 生豆はグリーンです
品種や乾燥具合にもよりますが、生豆は何となく緑っぽい色なので green と呼ばれる。
日本で生豆はなかなか見れませんが、一部の専門店などで自家焙煎のため売っていたりします。手持ちや小型のロースターを使って、自宅でコーヒーを焙煎することは可能。トラタロウも移住前はやっていましたが、味・香りが全然違います!
焙煎は8段階に分別されており、各地の生豆の特性に合わせた焙煎度が選択されます。
① ライト(Light)
② シナモン(Cinnamon) ここまではまだ飲用には適していません
➂ ミディアム(Medium) アメリカン・コーヒーくらい
④ ハイ(Hight) 酸味や独特の香りを生かすモカなど
⑤ シティ(City) 酸味を残すキリマンジャロなど
⑥ フルシティ(Fullcity) コクを求めるコロンビアなど
⑦ フレンチ(French) フランス人好みの深煎り
⑧ イタリアン(Italian)エスプレッソなど
※ 各焙煎度の適応例はトラタロウの好み・基準によるものです
※ 家庭での自家焙煎も可能ですが、煙が出ます(特に煎りあがる直前はすごい)。排煙しやすい場所、ご近所に影響が無い場所が必要です。
カフェスアダーを始めとしたベトナムコーヒーの焙煎は基本フレンチ・ロースト。植民地時代のフランス人の好みが受け継がれました。同じく旧フランス植民地だったチュニジアのコーヒーもこれでしたね。
ベトナムで栽培されるロブスタ種は苦みが特徴なので、これを生かす焙煎度でもあります。
豆知識⑤ 「コーヒーをお湯で割ったらアメリカン」?
トラタロウの若い頃にあったフレーズで、薄いのが特徴のアメリカン・コーヒーを揶揄(やゆ・からかうこと)しています。でも本来のアメリカン・コーヒーは焙煎度の低い豆でいれたコーヒー。焙煎度が低いと味・香りともに薄くあっさりしたコーヒーになります。でもカフェインは一番残るので眠気覚ましには一番かも。
➂ 独特のドリップ器具でコーヒーを抽出
焙煎したコーヒー豆を粉にしてコーヒー液を抽出しますが、方法は幾通りもあります。一番簡単で普及しているドリップ法ではネルの布や紙フィルターをセットしたドリッパーに粉を入れて湯を注ぎますね。
ベトナムではカフェ・フィン(Cà phê phin)という金属(ステンレスかアルミ)のドリッパーを使うのが特徴です。
使い方は
①コンデンスミルクを入れたカップにベースをセット
②本体をのせ粉を入れる
➂中蓋をセットしお湯を注ぐ
④上蓋をのせて抽出が終わるのを待つだけ。
抽出液に粉が混じりそうですが、全然気にならないレベル。その代わり抽出には時間がかかります。
2004年3月ベトナムに行った時カフェ・フィンを2万ドン(¥120相当)で買いました。しばらく使っていましたが、最近はご無沙汰。だって部品が多くて洗うのが面倒。紙フィルターのほうがやっぱり楽だ(笑)。
④ あらかじめコンデンスミルクが入っている
コンデンスミルク( Condensed Milk ・加糖練乳)は牛乳を煮詰めて濃縮した物。製造は簡単なのでかなり昔からあります。日本でも平安時代に「酥」(そ)という食品がありコンデンスミルクに近い物と思われます。ただ薬か栄養剤みたいな使われ方だったみたい。
やがて保存のため糖分が加えられ、当時開発された缶詰技術と組み合わされたそれは、19世紀半ばにアメリカで工業化され世界に広まりました。
フランスによるベトナムの植民地化とコンデンスミルクの普及は同じ時期。フランス人がコーヒーと共にベトナムに持ち込み、暑くて生乳の保存が難しいこともあって広まります。現在では何も言わなければホットにもアイスにもコン・デンスミルクが入っています。
トラタロウが現在住むマレーシアはイギリス支配下だったので紅茶が主流。国民的飲料であるミルク紅茶・テタレ(Teh Tarek)には同じくコンデンスミルクを使用。スーパーに行くと恐ろしい種類と数のコンデンスミルク缶が並ぶ有り様。日本だとチューブ入りが置いてあるくらいですよね。
豆知識⑥ 缶コーヒーは日本発祥
1965年に最初の缶コーヒーが発売され、1969年にUCCコーヒーミルク入りが発売。ヒットして定着しました。
欧米ではほぼ見ませんが、日本の影響が強い東南アジアではコンビニ・スーパーでワンダやらポッカやらがあります。
カフェスアダーには当然氷も必要ですが、これは氷屋が砕き氷を作って配達します。
物価がまだ安いベトナムですがカフェスアダーの価格はどうでしょう。トラタロウが2024年3月にベトナム南部に行った時の例を挙げます。1000ベトナム・ドン=¥6で計算。
・田舎町の地元民しか来ない茶店…1万ドン(¥120)~
・地方都市のカフェと呼んでもよい店…2万ドン(¥240)~
・大都市ホーチミンのエアコンが効いたカフェ…3万ドン(¥360)~
場所によってかなり価格差がありました。
ベトナムのカフェ風景
ロブスタ種 + フレンチロースト + カフェ・フィンドリップ + コンデンスミルク のカフェスアダーはカフェラテや日本のアイスコーヒーとはまた違う濃厚な美味しさ。
グルメサイト、「テイストアトラス」の読者投票で美味しいコーヒーの2位に選出されたこともあります。ベトナムに行ったら是非ご賞味下さい。
※ テイストアトラス最新版ではコーヒー部門5位、Vietnamese Iced Coffee に移動します
コーヒー全般の紹介も多かったですが、実はトラタロウはコーヒーが好きで教職採用試験に受からなかったらコーヒー業界に就職予定でした。教員時代も文化祭などで喫茶店を出したりしています。
では最後にもうひとつ
豆知識⑦ コーヒーの香りは合成できていない
ワインの香り成分が200種類ほどなのに対して、コーヒーのそれは800種類を越えます。複雑すぎてコーヒー香り成分の合成はまだ完全には不可能。松茸の香りマツタケオールは割と単純なので、合成され使用されています。永谷園のあれとか。
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